悪ノ人生‐ミチ− 最終話 This is my life.


リンアン:ri    灯世

レオン:re    りゅーが

ハイク:ha   柏木まあさ


男の子:bo    椎名円子

女の子:gi      MIA 

ナレーション:na和泉美鈴


 

 

 

SE   波

 


ha01 : 一緒にパン屋さんになろう、そう言って私を救ってくれた初めての友人。
       小さな小さな森の中で、自分の世界しか知らなかった私にたくさんの世界を見せようとしてくれた彼女。
       幸せという言葉を知らなかった私に幸せを教えてくれたミシェル。
       貴女は今、どこにいるのでしょうか?


ha02 : 私が住んでいた緑の国【グリーンビレッジ】が隣国だった黄金国【ゴールデンランド】に
       侵略されたあの日、森に足を運んでいた私は、戦火に巻き込まれなかった。
       戻ったときにはもう、街には入れなくなっていて、声が枯れるまでミシェルとモニカさんの名前を呼んだけれど、返事はこなかった。
       緑の国【グリーンビレッジ】が完全降伏をして、黄金国【ゴールデンランド】の兵士達が去った後、
       ボロボロの街に残っている人は誰一人としていなくて…緑の国【グリーンビレッジ】でただ一人、私だけが立っていた。

 

 


ri01 : ハイク、ハイクー。

ha03 : どうしたの、サリー?

ri02 : あのね、今日、ちょっと出かけてくるわ。

ha04 : どこに?

ri03 : 大切な人達のところに…

ha05 : そう…気をつけてね。

ri04 : ええ、帰りは少し遅くなるかもしれないけど、先に寝てて良いわよ。

ha06 : 分かったわ。行ってらっしゃい。

ri05 : 行ってきます、ハイク。

 


 

 

ha07 : 一緒に住んでいる友人の背中に手を振りながら少し昔のことを思い出す。
       国が滅んだ後、黄金国【ゴールデンランド】もクーデターが起きて滅んだと、
       全てを滅ぼした王女が処刑されたと、風の噂で聞く頃、私は、この港町で新しい生活を始めていた。
       ミシェルが望んでいた海の見える小さな丘で、パンを焼いて、近所の子供達に編み物を教えて…
       パン、前より上手に焼けるようになったよ、ミシェル…
       あ、大変、サリーが石に躓いてこけたわ。
       あ、立ち上がった。大丈夫かしら…

 

 

ha08 : ふふ、相変わらずどこか抜けてるわね。

 

 

ha09 : 小柄な友人の小さな背中。
       彼女が私のかけがえのない生活を奪った黄金国【ゴールデンランド】の王女だったと知ったのは、
       彼女と出会って暫くしてから。

 

 


SE  鐘の音

 

OP

 


ha10 : 悪ノ人生、最終話。


ri06 : This is my life.

 

 


SE  波

 

 


ha11 : モニカさんのお店に残っていたミシェルのリボンとモニカさんのペンダントを見つけたとき、私はまた一人になったんだと思い知った。
       一人は慣れているつもりだったのに、いざ、一人の夜を迎えると涙が止まらなくて、
       どうして私が生き残ったのか、どうして彼女が死ななきゃいけなかったのか。
       どうして私が生きているの…ミシェルはカインさんの国に行くってあんなに楽しそうに、嬉しそうに話していたのに…
       あぁ、ごめんなさい、ミシェル…ごめんなさい、カインさん…生きていてごめんなさい。
       思い出すと涙も罪悪感も何もかもが止まらなくて、私は夜風にあたりたくなって外に出た。

 

ha12 : 少し、海辺でも散歩しようかしら…あら?

 

ha13 : 教会のすぐそばで倒れていた小さな女の子。
       一瞬、ミシェルだと思ったの。だって、こんなこと、前に一度あったんだもの。

 

ha14 : 近所の子供、じゃないわね…
       誰かしら…と、とにかく教会の中に…っ。

 

SE  扉の音

 


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ジングル

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ri07 : ん…ここは…

ha15 : あ、起き、た?

ri08 : …どなた?

ha16 : あ、えっと、私はこの教会に住んでて…えっと、その、貴女、外で倒れてて…えっと、えっと、

 

SE  リンアンのお腹の音

 

ha17 : あ、スープ、いかが?

ri09 : …いただくわ。

 


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ジングル

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 


ha18 : 彼女は何も語らなかった。
       どこから来て、どこに行くのか、彼女が誰なのか、何も語らなかった。
       それでも、スープとパンを食べながら、彼女は何度も美味しい、と呟いていた。

 

ha19 : 行くところが決まってないのなら、暫くここにいても大丈夫、よ?

ri10 : ここ、貴女一人なの?

ha20 : ええ、私、前は緑の国【グリーンビレッジ】に住んでたの。でも、あそこはなくなってしまったから…
       今はこの教会で一人で暮らしながら近所の子供達に編み物を教えたり、パンを焼いたりしてるの。

ri11 : 緑の国【グリーンビレッジ】…

ha21 : 知ってる、の?

ri12 : え、あ、ええ、噂程度には…

ha22 : そっか…

ri13 : 暫く…暫くここにいてもいいかしら…?
       お手伝いはするわ!って言っても何が出来るのかは分からないけれど…

 

ha23 : 私はただ、ただ、寂しかったんだと、今になれば思う。
       だから、「暫くここにいても大丈夫」なんて言ったんだろうな、って…
       彼女は小さく、「サリー」と名乗った。
       サリーが焼くブリオッシュはとても美味しくて、前に増して子供達が教会に来るようになった。
       少しずつ笑うサリーと、いつの間にか私も一緒に笑っていて、気付いたら、サリーを友達と思ってた。
       料理を教えて、編み物を教えて、何日も何日も一緒に笑って…
       涙を流す夜がなくなった。

 


SE  ベッドの軋む音

 

ha24 : ん…あれ、サリー?…教会に灯りが…

 

SE  足音

 


ha25 : 夜中、目が覚めると隣で寝ていたはずのサリーがいなくて、教会でふわふわと小さな灯りが揺れていた。
       サリーが何か祈ってるのかしら、と思いながら扉を開けようとしたら、中から聞こえたのは、とても弱い、彼女の声。

 

ri14 : 神様、私は忘れてはいけないことを忘れていました。
       悲しくて、悲しくて、苦しくて、何もかもを忘れていました。
       大切な家族を…
       そして今、私は私を助けてくれた大切な友人に嘘をついています。

 


ha26 : 教会の十字架の前で彼女の口から零れたのは懺悔。
       彼女は私から全てを奪った黄金国【ゴールデンランド】の王女、リンアン=ミラー=アシュビッツ。
       悪魔のような娘…
       彼女は泣きながら懺悔をしていた。
       許せない、許せない、許せない、私の心はぐちゃぐちゃになって、次の日の夜、気付いたら、ナイフを片手に立っていた。
       私に気付かない彼女は今度は海辺で泣きながら懺悔を続ける。

 

ri15 : 一人になって気付いた…っ、私、ずっとずっと皆と一緒にいたかっただけなのに。
      どうして私が生きてるのよ、どうしてレオンが、どうしてルナが、どうしてガクトが、どうしてサリーが!
      意味分かんないよ、レオン…っ、私、どうすれば良いのかも分かんないよ…
      ごめんなさい、ごめんなさい、生きててごめんなさいっ、私が、全部悪いの…ごめんなさい…

 

ha27 : あぁ、ミシェル、ごめんね。モニカさん、ごめんなさい。
       私、二人の仇、とるつもりだったのに…
       だって、何回も何回もごめんなさいって謝りながら泣く彼女は今、とてもとても孤独なの。
       昔の私と一緒なの。
       皆と違う環境で、違う育ち方をして…とても大切な人を失った…
       彼女の涙を見た時、私はナイフを握る力をなくしたのよ。

 


SE  足音

 

ha28 : サリー…

ri16 : …ハイク…

ha29 : ここは寒いわ。風邪を引いてしまう前に帰りましょう?

ri17 : ハイク…

ha30 : ね?温かいスープ、作るから。

 

 


ha31 : ミシェル、あなたが私を救ってくれたように…今度は私が彼女を救う…ううん、そんなおこがましいこと言わないわ。
       今度は私が、あの子の一番近くにいるわ…

 

 

SE  扉の音

SE  足音

 


bo01 : ハイクー!サリー!おっはよー!

gi01 : あれ?サリーは?

ha32 : あら、2人とも、今日は早いわね。

bo02 : うん、今日で完成させたいから。

gi02 : ねぇ、ハイク、サリーは?

ha33 : サリーは今日、大切な人に会いに行ったわ。帰りは遅くなるって言ってたけど…

bo03 : えー、今日もサリーのブリオッシュ期待してたのにー…

ha34 : 今日は私のお菓子で我慢してね。

bo04 : あ、じゃあ、サリーのパンが良いー。

ha35 : それじゃあ、おやつの時間までに頑張って完成させましょうか。

gi03 : はーい。

bo05 : おう!

 

 

ha36 : 私がまた孤独になったあの日から幾日たったのか分からないけれど、
       ミシェル、私は生きていても良いのかな?
       サリーのために、この子達のために、…私のために…
       パン屋さんはまだ夢のままだけれど、この海の見える丘の教会で、少しでも多くのパンを焼くから。
       煙突からのぼるパンの香りがミシェルのところまで届くように。

 

 

 

ha37 : 今日は良い天気ね…
       大切な人たちのところ、か…
       あの時、海辺で泣いていたサリーの傍らに一瞬見えた、サリーに似た男の子のところに行ってるのかしら…

 

 

 

 

−丘・墓場−


SE  足音

 

 

ri18 : サリー、ルナ、ガクト、来るのが遅くなったわね、ごめんなさい…
       レオン…あら、花束…誰がレオンのお墓に…それにこの天秤…
       あの時、話してくれたお友達、かな?

 

ri19 : 皆、結局私が手放した…私が離しちゃったんだ…

 

ri20 : 離したくなくて、いなくなって欲しくて必死になって足掻いて、繋ぎとめようと縋ってたのに、
       結局は私がそれを断ち切ってた…
       あれから、何日も何日も一人で歩いて、知らない土地で知らないことばっかりに出会って、
       一人の夜に何度も泣いた。
       それでやっと分かったの。
       私にとって何が大切だったのか…私にとってはね、皆といる時間が、皆が大切だったのよ。

 

ri21 : だから、ごめんなさい、何回言ってもきっと、伝わらないかもしれないけれど…

re01 : 伝わってるよ。

ri22 : …っ、れ、おん…?
      どうして黙ってるの?ねぇ、レオン…
      あ、レオン!消えないで!待って!私、まだレオンにっ!
      ごめん、と…ありがとう、言えてないのに…

 

 

SE  教会の鐘の音

 

 


ri23 : そっか…伝えにきてくれたんだ…ずっと傍にいるって…
       だって、レオンと私は双子だから。
       この絆は誰にも切れない。どんな運命にも切れない。
       そうだよね、レオン…

 

 

re02 : 俺はずっと傍にいるよ。
       だって俺たちは双子だから。
       そうだろう、リンアン?

 

 

 

ri24 : レオン、サリー、ルナ、ガクト、そろそろ帰るね。
       また、来るから。
       今ね、一緒に暮らしてる友達がいるの。
       お料理と編み物がすごく上手で、ハイクって言う子。
       サリーみたいにお友達になろう、って言ってくれたんだ。
       それで、ルナみたいに優しくて、ガクトみたいにあたたかいの。
       だから、安心して。私、ちゃんと生きてるよ…レオン。
       ……それじゃあ、またね、皆。

 

 


SE  足音

 

 

 

re03 : 俺、思ってた。たとえリンが悪の道を選んだとしても、俺はそれを受け入れる、と。
       それが俺の人生。

 

ri25 : 私は悪魔だったのかな?いつから?生まれたときから?教会の鐘の音が鳴ったときから?レオンと初めて会ったときから?
       でもね、レオン…私、あの時とは違う。もう、あの時とは違うの。

 

re04 : リン、きっと、今の人たちは君の事を悪だって言うんだろうな。でも、違うよ。

 

ri26 : 私の変わりに悪を引き受けたレオン…でも、違うわ。

 

re05 : リン、君は白すぎただけだ。真っ白な…

 

ri27 : レオン、あなたは優しすぎただけよ。まっすぐに…

 

re06 : 俺にとって君は悪じゃない。君は…

 

ri28 : あなたは悪じゃない。あなたは…

 

re07 : いつまでも、俺の正義だった。

 

ri29 : いつまでも、私の味方だった。

 

 

re08 : でも、それが回りから悪といわれるのなら、甘んじて俺は受け入れるよ。だって、これが俺たちの選んだ…

 

 

ri30 : 悪ノ人生【ミチ】

 

re09 : 悪ノ人生【ミチ】

 

 

 

SE  鐘の音

 

 

 

na01 : 運命が別れた哀れな双子、
       大木の下で出会った親友、
       場内で過ごす王女に忠誠を誓ったもの、
       轟く激しい感情に戸惑う反乱軍、

       すべての運命が、
       すべての誓いが、
       すべての想いが、
       すべての感情が、

       交錯して紡がれたひとつの物語

       齢14の王女様と、顔のよく似た召使の周りで廻った歯車は誰にも止められず、

       ただ、加速もせずに、減速もせずに、単調なリズムでぐるぐるぐる…


       さぁ、アナタの歯車は廻ってますか?


       アナタの人生は…どんなミチでしょうか?

 

 

 

SE  鐘の音

 

 


ENDING

 

 

 


FIN.